
先週、家電量販店でマッサージ機に試乗してたんすよ。
最近ちょっと肩こりがヤバくて、「最新のマッサージ技術で肩が消し飛ぶレベルでほぐれんのかな〜」とか期待してたの。
そんで座って、リモコン持って、いざスイッチオン。
……動かない。
ん?って思って、電源入ってるか確認して、もう一回ボタン押してみたけど、やっぱり動かない。
「壊れてんのか?」とか思いながら、適当にボタンを連打してみた。
強さの調整ボタン、モード切り替え、リクライニング、なんかよくわからん「エア」って書いてあるやつ……。
全部押してみても、俺のマッサージ機はピクリとも動かない。
その瞬間、隣のじいさんが「……ぅお?」って小さく声を上げた。
え?って思って横を見たら、じいさんの体がゆっくりと沈み、次の瞬間、背もたれがガコンと倒れた。
それと同時に「ゴゴゴゴゴ……!!!」って重低音が響き、マッサージ機が本気を出した。
じいさんの肩、めちゃくちゃ入念にこねられてる。
「えっ、なんか強くない?」って思った瞬間、じいさんがゆっくり俺の方を見た。
顔は「な、なんか急にパワーアップしたんだが?」って感じ。でも、たぶん俺が操作してるとは思ってない。
じいさんは背もたれが深く倒れたせいで、完全に俺の手元が死角になってたから。
じいさんからしたら、突如マッサージ機が「覚醒」したようにしか見えてないはず。
で、そのタイミングで気づいたんすよ。
俺が操作してたの、まさかのじいさんのマッサージ機のリモコンだった。
俺のマッサージ機、電源すら入ってなかった。
じいさん、めちゃくちゃ複雑な顔してた。
「まぁ……気持ちいいっちゃ気持ちいいけど……でも、強いな……?」みたいな表情。
俺も「やべぇ、今ならまだ引き返せる……?」って考えたけど、すでに遅かった。
ここで「すみません!」って言ってリモコンを戻したら、「お前かよ!!!」ってなる。
かと言って、放置したら、じいさんは「なんかよく分からんけど、急にマッサージがやたら強くなった人」になる。
どっちにしろ地獄。
俺は立ち去った。
立ち上がって、めちゃくちゃ自然な動作でその場をスーッと離れた。
「ちょっと洗濯機コーナー見てきますわ〜」みたいな顔で。
俺は振り返らなかった。
あの店には、しばらく行けない気がする。